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【イブキライズアップ】第1話 壊れた脚と心【未実装ウマ娘】

※本作では競馬の綺麗事ではない暗部にかなり踏み込みます ※最終ページに予想と観戦マナーにも役立つ元ネタ解説があります ※主人公はやさぐれていますがそれなりの理由があり、後でちゃんと更生します ※筆者はファル子に大変複雑な感情がありますが、反面儲けさせてもらったので感謝しています ※私の独自解釈で、交流重賞並びに地方のビッグレースも勝負服着用です ※我慢して続きを読む気になった人には『たいようのマキバオー』をお勧めします _______________________________________________________ Part.1 その名はウララ  煌びやかな勝負服に身を包み、砂の上を少女達が駆け抜けていく。それは彼女にとってあまりに眩しく、また嫉妬を抱かせた。  弱き者は去るのがウマ娘の宿命だとしても、ウマ娘と生まれついて走る事を否定されるのはあまりに残酷で、そして生々しい現実でもある。  彼女もまたウマ娘として生まれつき、その残酷な現実に飲み込まれてしまった。彼女は願ってももう走れないのだ。 『最終コーナーを回って先頭で逃げるのは一番人気のスマートファルコン、抜け出して追い込んでくるのがエルコンドルパサー、ぐんぐん差を詰める』  彼女は思わず舌打ちした。嫌な奴が勝利を掴もうとしている。努力では決して克服できない壁の向こう側に居たかつての仲間を、決して嫌いではなかったはずのあの娘を、今や彼女は憎悪の目で睨みつけている。 『おっと、バ群から抜け出してきたのは驚いた!ハルウララ!これは強烈な追い込み。届くか?』  まさか?彼女は立ち上がろうとしてよろめいた。他の観客はそれを見てレースから視線を離してしまう。 『追い込む!ハルウララ!努力が実るか?実った!ハルウララだ!』  トレセン学園の人気者にして名うての劣等生、ハルウララがGIを勝ち取った。それはレース史上特筆すべき出来事だ。  勝っても負けても一生懸命で嬉しそうなウララは、いつも以上に嬉しそうに見えた。そうだろう。だが、彼女は歯ぎしりして下を向いてしまい、決してウララを直視しない。いや、出来なかった。  ウイニングライブは感動的な物になった。ローカルシリーズで一度も勝てないままURAにやって来て、トゥインクルシリーズでGIを制覇したのだ。こんなにも『UNLIMITED IMPACT』が似合うシチュエーションは他に有り得ない。  エルとファルコンを引き連れて歌うハルウララの姿は見る者の心を打った。だが、彼女は直視できない。レース以上にその光景は眩しかった。 _______________________________________________________ Part.2 招かれざる招待客 「やったよ、トレーナー!」  その夜祝勝会が執り行われた。仲間にしてライバルを、記者達を前にウララは喜びを爆発させ、賑やかな事この上ない。  やがて記者が引き上げ、ウマ娘とトレセン関係者、そしてウマ娘の家族だけが残って二次会のようになった。いきおいウマ娘たちのテンションが高くなり、歌や踊りも出て楽しげだ。  その時、会場のドアがゆっくりと開いた。居合わせた全員がそれを見て、賑やかだった会場が水を打ったように静かになった。彼女がそこには居た。 「ライズちゃん、来てくれたんだ!」  ただ一人ウララだけが目を輝かせながら彼女に駆け寄って抱き着き、彼女はそのままバランスを失って倒れ込んだ。 「ウララが来てくれって言ったんでしょ」  ライズと呼ばれた彼女は、慌てふためくウララに抱き起されながら心底嫌そうに言った。 「とりあえず、おめでとう」 「ありがとう!」  ライズはウララに招待されて遠くからやって来た。だが、他の出席者はライズを見て一様に黙りこくって複雑な表情を浮かべた。  ジーンズに青と白の山形模様のジャケットという装いのライズはかなりの長身であった。ウララと並ぶと母子というより父子に見える。  血のように赤い石のあしらわれたかんざしを挿した長い芦毛のポニーテールは銀髪というよりも白髪のような色彩を感じさせるが、見る者を嫉妬させる程美しい。  顔に険があった。世を儚むと言えば美しいが、むしろ世に憎悪を抱いているような印象を与え、ウララの後ろに居る出席者達を睨み付けている。  均整の取れた身体つきで、居合せたトレーナー達は素質の有りそうなウマ娘だと一様に思ったが、ライズには絶望的な欠陥があった。  ライズのジーンズの左は不自然にだぶついていて、足首と靴の間には不穏な金属棒が覗く。  ライズの左脚は義足なのだ。それは走る宿命を負って生まれたウマ娘にとって、目を背けたくなる不吉で恐ろしい光景だ。 「URAの祝勝会って豪華ね。一応居たのに出た事がないから知らなかった」 _______________________________________________________ Part.3 ローカルの現実  ライズはウララを押しのけ、怯えるウマ娘達の固まった一角を義足をきしませながら一周し、エルの前で立ち止まった。 「イブキライズアップよ。覚えてる?」 「オゥ…」  エルは答えに窮した。ライズはかつて学園に居たようだが、エルは彼女の記憶がなかった。そうしてひっそりと去って行くウマ娘が沢山居た。 「でしょうね。同期と言っても、私が出られたのは1レースだけ」  エル達最強世代と呼ばれるウマ娘とライズは同期だ。だが、デビュー前から将来を嘱望されていた彼女達と、教官に見限られて途中退学を余儀なくされるようなウマ娘とでは、最初から住む世界が違うのだ。 「放り出されて、ローカルで必死に走った結果がこれよ。空中殺法は無理だけど、凶器攻撃には便利よ」  ライズは不気味に笑いながらジーンズの裾をまくって義足を披露した。太ももの三分の一程の部分から下が金属に取り換えられている。気の弱いウマ娘はこれを見てめまいを覚えた。 「しかし、どこのトレーナーだ?義足になるまで走らせるなんて…」  ウララのトレーナーが思わず口走った瞬間、ライズは鬼の形相で向き直りながらトレーナーに金属製の足払いを食らわせた。 「あんたに何が分かるのよ!?」  トレーナーはウララに抱き起されたが、右足をウマ娘の脚力でもって金属で蹴り付けられたのだからとてもまともに立っていられない。 「私のトレーナーはあんた達が見放した私を必死に治して、こんなになるまで走らせてくれた。このトレセンにそんな事の出来る、してくれる奴が一人だって居る?」  トレーナーや教官達は顔を見合わせた。ウマ娘の治療するのも彼らの仕事とはいえ、結局のところそうまでして治療してもらえるのはほんの一握りだ。 「居るわけないわよね。怪我したウマ娘は放り出すんですもの。ローカルならやれるとか、普通の女の子に戻れとか、そんな安っぽい言葉を手切れ金みたいに寄越して」  ライズの批判はあまりに痛烈で、反論の余地がない。華やかに見せかけてみたところで、トレセンとはそういう場所なのだ。 「私を嫌な奴だと思うのは勝手だけど、私のトレーナーを侮辱するなら、今度は本気で蹴る!」 「…せっかくのパーティーでそんな悪態をつくな」  この危険な招待客に立ち向かったのがオグリキャップだった。 「ローカルシリーズは大変だ。私もカサマツから来たからよく知っている」 「ええ。あなたはカサマツを捨てた」  オグリは顔をひきつらせた。 「そうやってローカルシリーズで実績を残して中央へ行く。そりゃあ気分が良いわよね。けど、そういう『かまどウマ』が出て行った後どうなるか考えた事ある?」 「私はカサマツの仲間達の為に…」 「綺麗事を言うな!」  ライズはオグリの一番の泣き所に容赦なく踏み込んだ。 「昔居たウマ娘の名前でお客さんが集まるなら楽でしょうね。けど、ローカルシリーズは目の前にある物が全てなの。あんたは後の事を考えずに自分だけが良い格好をしてるのよ」  オグリは言い返せない。その現実を肌で知っているだけに、残していった仲間達の苦境を想像せずにはいられなかった。 「ローカルったってオオイあたりの出じゃ分からないでしょうね。古い人達にオオイから来た大先輩の話をよく聞かされたわ。凄いウマ娘が来てくれたってトレセンの人たちもファンも凄く喜んでたんですって」  ライズはイナリワンが居るのを見つけ、イナリめがけて歩きながらテーブルのキャンドルとナプキンを取った。 「その先輩は卒業したらトレーナーになるって張り切ってたのに、卒業を目前に火事で死んだわ。その後のシリーズはもうガラガラで、食べ物も買えない。かまどウマが居なくなるってのはそういう事なのよ。オオイならあんたの代わりも居たんだろうけど、田舎じゃそうじゃない」  ライズはわざとらしくナプキンにキャンドルで火をつけ、手が火傷しそうなほど燃やして皿に捨てた。  イナリはたまらず目を背けた。ダートならURAよりオオイと言われていたほどの大昔、その偉大な大先輩を襲った悲劇をイナリも知っていたからだ。 「いつトレセンが潰れるのかって不安を押し殺しながら、あちこち痛いのを我慢して、生徒より少ないお客さんの前で毎週のように走って、たまに満員になったと思えば、あんたらがお情けで冷やかしに来た時」  ライズは一際気まずそうにしていたファルコンを目ざとく見つけ、逃げようとする彼女の前に殺気を漂わせながら立ちふさがった。 _______________________________________________________ Part.4 悔し涙に命花 「ダートで勝ってもウマドルになれないんですってね?あんたの引き立て役にされるローカルの娘の気持ちを考えた事がある?」  ライズは後ずさりするファルコンをかみつく勢いで追いかける。 「着古しの勝負服と疲れ切った身体で必死に食らいついて、誰も見てくれないまま負けレースを終えて、あんた達が呑気に歌ってる時、その娘達が何してると思う?」  ファルコンは答えられない。 「惨めで惨めで仕方ないけど、トレセンの為だって悔しくて泣いてるのよ。ダービーで負けたって、あんな悔し涙は出ないでしょうね」  ライズは右の人差し指で自らの右目を指さした。ファルコンの顔から血の気が引いた。 「そして泣き明かして、また夏も冬もなく走る生活に戻るの。けど、あんたは私達のところには来なかった。レースを開催する為にファンが募金を集めてようやく開催したのにね。ウマドルさん、コウチって場所をご存じ?」  ファルコンは涙目になっている。だが、ライズは余程ファルコンが憎いと見えた。 「どんなに辛くても走って、走って、脚までなくして。そうまでして私達が守った物ををあんたは安く見て、ダートのセンターは嫌ですって?ふざけんな!」 「…ちゃんと走らないからお客さんが来ないんじゃないの?」  ファルコンのこの一言にライズは切れた。ライズは義足であるのが信じられない動きと力でもってファルコンの両方のツインテールを掴み取り、手酷く引っ張った。 「寄るな!この偽善者を尼さんに転職させるわよ」  警備員が駆け込んできたが、これには誰も手が出せない。ウマ娘が本気で髪の毛を引っ張れば何が起こるか分からない。 「走らない?走れないんだよ!ローカルのウマ娘は皆問題だらけ、怪我だらけ。それでも痛みに耐えながらあんた達の一生分のレースを1シーズンで走って、それを何年も何年も繰り返すの。そして最後はたった800メートルを走る事が出来ない身体になって、ボロボロになってどこかへ消えていくのよ」  ファルコンの髪の毛を引っ張るライズの手に力が入る。ファルコンは痛みと恐怖で顔面蒼白になり、声にならない声を上げて右往左往した。 「あんた根っからローカルの好きなファンには嫌われてるよ?本当の苦労なんて知らないくせに苦労人面して。私達に比べればあんたはまるでお姫様。お姫様ってのは贅沢をし過ぎると首がなくなるのが通り相場よね?」 「ライズちゃん、もうやめて!」  ついにウララが泣き出した。ウララはただかつての親友に自分の晴れ姿を観て欲しかっただけなのに、目の前の光景はどうだろうか。ローカルのウマ娘がURAに喧嘩を売る修羅場だ。 「ウララ、悪かったね。とにかく、ウララが勝って私も嬉しいよ」  ライズはファルコンを突き飛ばしてウララの頭を撫でながら、初めてまともな笑みを見せた。それは一瞬の事だったが、鬼の形相で痛烈な演説をぶった彼女とはまるで別人のようだった。 「私はもう帰る。これ以上居たら警察沙汰になりそうだから」  最後の最後に恨み言を残し、ライズは乱暴な足取りで消えた。 「ウララ、どうしてあんな不良を呼んだ?」  まだ足を痛そうにしているプロデューサーは、ようやく泣き止んだウララに事の真相を訊ねた。 「不良じゃないもん。ライズちゃんは本当は強くて、優しくて…」  ウララはたとえトレセンの仲間を敵に回すとしても、ライズを庇うつもりらしい。 「それに、私がトレセンに来れたのはライズちゃんのおかげだよ」 「何だって?」  ウララはまた目に涙を浮かべながら、コウチトレセンでライズの身に起こった事を話し始めた。 _______________________________________________________ 元ネタ解説 Part.2 青と白の山形:  イブキライズアップの主戦騎手、花本正三の勝負服「青、白山形、白袖」に由来。 見る者を嫉妬させる程美しい:  イブキライズアップはとても大事に手入れをされ、その遺髪はため息が出るほど美しいという。 Part.3 エルと同期:  イブキライズアップはエルコンドルパサーと同じ1998年産。 見放した:  しかし、左前脚の脚部不安でデビューが遅れ、デビュー後まもなく地方に移った。 昔居たウマ娘の名前で:  笠松競馬場にはオグリキャップの銅像が建って「名馬の里」と称しているが、現状は極めて苦しい。 ローカルは目の前にある物が全て:  地方競馬ファンの気質は極めてアナーキーで、馬を文字通り駒とみなすところがある。 偉大な大先輩を襲った悲劇:  昭和の高知では馬産が行われており、南関東でならした馬が種牡馬入り前に顔見世を兼ねて走るケースがままあった。  ヤシマナショナルという南関東最強を誇った馬がこの流れで高知に移籍したが、引退を目前にして火事で命を落とした。 その後はガラガラ:  火災で多くの馬が死んだ高知競馬は混迷を極め、どんなレースも配当が500円前後になる怪現象が起きたという。 夏も冬もなく走る生活:  地方競馬、それも賞金が低い競馬場だと休養が与えられるのは余程の実力馬だけで、大半の馬は出走手当の為に毎週のように走る。 Part.4 反ファル子感情:  多くの地方競馬ファンはスマートファルコンを嫌っている。地方ファンはアナーキーな反面地元意識が強く、交流重賞で地元のエースが負けるのを嫌がる。 トレセンの為:  近年はネット投票の普及で地方競馬の売り上げは回復基調だが、2000年代は多くの競馬場が交流重賞で他の開催の赤字を埋める自転車操業で、競馬場が次々と廃止になった。また、この構図は現在でも少なからず存在する。 ファンが募金:  中でも高知競馬の窮状は酷く、2007年は黒船賞の開催経費が捻出できなくなり、ファンから「かいば桶支援金」と称して募金を集めてどうにか開催した。  しかし、年代的にスマートファルコンは出られない。 イブキライズアップの競走成績(netkeiba) https://db.netkeiba.com/horse/1998106545/

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